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日本食の文化を伝える


■オリンピックとマーケティング

~日本食の文化を伝える~


1)日本食ブームとUMAMI革命

2020年に開催される東京オリンピックを前に、世界で急速に広がる日本食ブームは
日本の食産業にとってまたとないチャンスだ。実はこの日本食ブームの広がりと並行する
ように、世界の料理界では大きな変化が起きていた。それは世界中に広がる「UMAMI革命」である。
その発端となったのは2002年、舌にうま味のレセプター(受容体)が発見され
正式に認められるという大事件だった。もともと西洋では、味の構成要素を「甘味、塩味、
苦味、酸味」という「四味」と認識。しかし、日本では800年以上も前から「うま味」を
加えた「五味」と認識していた。この歴史的な発見に世界中の料理人は色めき立ち、
まるで何かの魔法のように憧れ「うま味のメッカ」である日本を訪れた。

そして、出汁のひき方、昆布〆の仕方などの伝統的な「技」を習得するため日本料理店の
門を叩いた。今ではパリのフレンチの三ツ星店でも、料理の味わいのカギを握る要素として
「うま味」を重要視し、昆布だしやかつおだしを常備することも珍しくない。

一方、世界では日本食の大衆化と現地化が進行している。日本食ブームは世界的に進行する
食生活のヘルシー志向と無関係ではない。「うま味」を利用することで油脂に頼らず味の
奥行きが表現できる日本食は、海外の飲食店経営者に大きなビジネスチャンスと捉えられた。
その結果、海外の日本食レストランの数は急増し約6万軒にものぼる。


2) フランスワインを支える周到な国家戦略

日本の食文化や食材を海外にPRする際、参考になる成功事例がフランスワインだ。
2010年のフランスのワイン輸出金額は約8,500億円。一方、2012年の日本酒輸出金額は
89億円。近年、日本酒の輸出金額が高い伸び率を示しているにも関わらず、依然100倍近く
の差が存在する背景には、以下のようなフランスの周到な国家戦略が存在する。

第1は原産地呼称制度。
フランスが法律として制定したもので、ワイン用のブドウの産地をその品質により畑の格付け
を行うものだ。これは、客観的な評価制度によりワインのグレードや価格設定を明確にした
「ブドウ畑ランキング制度」である。

第2はソムリエ制度。
フランスではソムリエは国家資格。ワインの価値を丁寧に消費者に説明する為に料理とのマリアージュ
という観点で情報提供する。ワインのプロ(人)によるメディア戦略であり、その魅力を
世界中で発信する「アナログ版ツイッター」だ。

第3はワイングラス。
ワインの美味しさや香りなど、個性を最大限に引き出すために不可欠な道具である。
さらに、機能美を兼ね備えたデザインは世界の美食家たちを惹きつける魅力を持つ。ワイングラスは
ワインの価値を最大化するための「インフラ」である。

この様に、フランスワインは周到なブランド戦略によって支えられており、輸出金額に
100倍の差が生じる大きな要因である。

フランスは農産物の輸出に関して、ナショナルチームによる「オリンピック」を戦っているが、
わが国の場合、農産物や日本酒は企業や地域による「国内大会」に専念しグローバルに
戦うための戦略に欠けている。

その結果、2010年のG7各国における農産物輸出金額 は、フランス6兆909億円、イタリア
3兆6,799億円、米国11兆8,116億円、英国2兆4,410億円、ドイツ6兆6,948億円、
カナダ3兆3,793億円であるが、先進7ヵ国で唯一日本だけが5,506億円(2013年速報値)と
いう規模に甘んじている。日本以外の先進国において、農業は国家の基幹産業である。
何故なら「食糧安全保障」という国家の重要政策にも直結しているからだ。


3)日本の食文化を分かりやすく伝える

グローバルに広がる日本食ブームは、日本の食文化そのものを巨大市場へと急成長させて
いる。海外の日本食レストランの数が直近の3年で約6万軒へと倍増したという事実が、
そのブームの過熱ぶりを物語る。ところが、その9割は外国人の経営によるもの。この事実を
踏まえ、わが国が日本食ビジネスの「デファクト(標準)」を握るためにはまず、
海外のシェフ達が自由な発想で作る日本食を受け入れる寛容さも必要だ。

海外では「日本食の専門店化と大衆化」が急速に進行している。日本食は細分化され、
「寿司屋」、「ラーメン屋」、「カレー屋」といった分かりやすい専門店として現地化する
ことで急速に拡散している。そこで、2020年の東京オリンピックでは、日本を訪れる外国人
選手やプレス関係者に向けて日本食の魅力を「分かりやすく伝えるための仕掛け」が必要だ。

例えば、外国人選手が宿泊する選手村やプレスセンターに「寿司」、「ラーメン」、「カレー」、
「弁当」など海外の人気業態の「専門店型フードコート」を設置する。これは、既に世界で
支持され現地化が進むこれらの業態をメディア化することで、国産食材の絶好のプロモーションの機会
として最大限に活用するのが狙いである。

さらに、日本の食文化を「楽しく伝える場」として海外のプレス関係者を対象に日本食セミナーを開催する。
例えば、『「寿司セミナー」では、江戸前の寿司職人が技の一端を伝授する。「ラーメンセミナー」では、
人気ラーメン店の店主直伝の美味しいラーメンの作り方を学ぶことができる。
「BENTOセミナー」では、美しくヘルシーな弁当の作り方を学ぶ』といった具合だ。
日本料理を体系として大上段に構えて講釈するのではなく、カジュアルかつ豊かな食文化として
「分かりやすく伝える」ことが重要である。

オリンピック・フードコート(仮称)で使用する食器類やグラフィックツール類など全ての
インターフェイスも日本食の魅力を伝えるための「コミュニケーションツール」としてデザインする。

デザインは音楽などの芸術と同様に「言葉の壁」を乗り越え、それ自身がコミュニケーション
ツールとしての力を持っている。そこで、海外でも高い評価を受ける日本人クリエイターの
「デザイン力」を活かした総合的なコミュニケーション戦略を考える。和食がユネスコの
世界無形文化遺産に登録され、海外に向けてその魅力を「伝えきる」ためには、
コミュニケーションビジネスの機能と役割は非常に大きい。



有限会社 草場企画
代表取締役 草場佳朗

宣伝会議 2014年4月号寄稿









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